こんにちは!行政書士の栗原です。
カウンターでお酒を楽しむだけでなく、ダーツで盛り上がったり、カラオケで熱唱したり、ゴルフシミュレーターでナイスショットを狙ったり…。お客様に「楽しい時間」を提供するための「遊技設備」は、バーや飲食店の大きな魅力の一つですよね。
私も「遊べる本屋」の店長時代、お客様にいかに楽しんでもらうか、その「遊び心」を大切にしてきました。ですから、お店にエンターテインメント要素を加えたいというオーナー様の気持ち、とてもよく分かります。
しかし、この「遊技設備」が、飲食店開業、特に深夜0時を過ぎてお酒を提供するお店にとって、思わぬ「落とし穴」になるケースがあることをご存知でしょうか?
保健所の飲食店営業許可さえ取れば、何をやってもOK!…というわけではないのです。今回は、バー開業を目指す方がハマりやすい、「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」(通称:深夜酒類の届出)と「遊技設備」の、非常に難しい関係について解説します。

大前提:バーを開くには2つの手続きが必要
まず、開業準備の基本として、必要な手続きをおさらいしましょう。
- 飲食店営業許可(管轄:保健所) これは、飲食物をお客様に提供するために必須の許可です。厨房の設備や食品衛生責任者の配置など、食の安全に関する条件をクリアする必要があります。
- 深夜酒類提供飲食店営業開始届出(管轄:警察署) これは、深夜0時から午前6時まで(※)の間、お酒をメインとして営業する場合に必要な届出です。(※ラーメン屋など主食メインの店は除く) (※この「深夜」の時間帯は、風営法第十三条第一項および各都道府県の条例で定められています。東京都や神奈川県(横浜市・川崎市などを含む)の条例では「午前6時まで」と明確に規定されています。)
問題となるのは、この2つ目の「深夜酒類の届出」です。この届出を行うお店は、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)という法律のもと、「お客様に遊興をさせないこと」が原則とされています。
▶ご参考:e-Gov法令検索 – 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)
「遊技」と「遊興」の境界線。警察署はここを見ている!
「ダーツやカラオケは、遊興じゃないの?」 まさに、そこが最大の論点です。警察署(風営法)では、「遊技」と「遊興」を分けて考えています。
- 遊技(ゆうぎ):お客様が自主的に遊ぶこと。 (例:ビリヤード台が置いてあり、勝手に遊ぶ。テレビゲーム機が置いてある。)
- 遊興(ゆうきょう):お店側が積極的にお客様の遊びを演出し、盛り上げること。 (例:ダーツ大会を主催する、カラオケの点数を競わせるイベントを行う、スポーツバーで大音量で応援を先導する。)
「深夜酒類の届出」で営業するお店(深夜0時から午前6時までお酒を出すバーなど)は、「遊興」させる営業が禁止されています。もし「遊興」をメインにする場合は、「特定遊興飲食店営業許可」という、非常にハードルの高い許可が別途必要になるのです。
なぜダーツやカラオケが問題になるのか?
ダーツマシンやカラオケ、シミュレーションゴルフなどは、それ自体がお客様の遊びを誘発し、盛り上げる機能を持っているため、「遊興」に該当しやすい設備と見なされます。
「うちの店は、ただ置いておくだけで、大会なんてしないから大丈夫」 そう考えるかもしれませんが、手続きの現場では、そう簡単にはいきません。
保健所の審査とは全く異なり、警察署は「お店の健全な風紀」を守る視点で審査します。そのため、これらの設備があるだけで「遊興をさせる店」と判断され、届出の手続きが難航したり、最悪の場合、受理されてもその後の実査や指導で営業方法の変更を求められたりする可能性があるのです。
【要注意】警察署の「ローカルルール」という壁
この「遊技設備」の扱いは、全国一律の明確な基準がなく、管轄の警察署や都道府県の条例によって、判断が大きく異なるのが実情です。
- A警察署:「ダーツマシンは1台までなら、遊技とみなしてOK」
- B警察署:「ダーツマシンを置くこと自体、遊興にあたるので一切NG」
- C警察署:「カラオケはOKだが、ステージやお立ち台を作ったらNG」
など、対応がバラバラなのです。特に、横浜市や川崎市、東京都内などの首都圏では、繁華街も多いため、このあたりの運用が厳格な傾向にあります。
「隣の駅のバーはダーツ置いて深夜までやってるのに、なんでウチはダメなんだ!」 ということが、普通に起こり得ます。これが、この手続きが難しいと言われる最大の理由です。

罠を回避する唯一の方法「契約前の事前相談」
では、ダーツやカラオケを置いたバーを開業したい場合、どうすればいいのでしょうか? 答えは、飲食店営業許可の準備と同じです。
「物件を契約する前に、必ず警察署に相談する」
これに尽きます。
相談の具体的な流れ
- 物件の内見:お店のレイアウトを考えます。
- 保健所へ事前相談:まずは「飲食店営業許可」の設備条件(シンク、手洗い場など)がクリアできるか、図面を持って相談します。
- 警察署(生活安全課)へ事前相談:【最重要】保健所でOKが出たら、同じ図面を持って警察署へ行きます。
警察署で何を伝えるべきか?
ここで、あなたの「本気度」と「健全性」を伝えることが重要です。
「この物件で、深夜0時から午前6時までお酒をメインに提供するバーを開業したいと考えています。お客様に楽しんでもらうため、ダーツマシン(またはカラオケ)を1台設置したいのですが、これは『遊興』にあたりますか? 深夜酒類の届出は受理されますか?」
このように、具体的に、正直に聞くことです。
ここで「ダーツはNGです」と言われれば、その物件は諦めるか、ダーツを諦めるかの二択になります。逆に「その規模なら遊技の範囲内とみなします」と言質が取れれば、安心して契約に進めます。この手続きを飛ばすことこそが、開業における最大のリスクなのです。
▶ご参考:神奈川県警察 – 営業(深夜酒類提供飲食店営業)の届出
まとめ:「楽しいお店」と「安全なルール」は両立できる
飲食店営業許可(保健所)は「食の安全」を、深夜酒類の届出(警察署)は「地域の安全」を見ています。どちらも、お客様に安心して楽しんでもらうために不可欠なルールです。
- 深夜0時から午前6時まで、お酒メインで営業するなら「深夜酒類の届出」が必須。
- ダーツやカラオケは「遊興」とみなされ、難しい判断になる場合がある。
- 判断基準は管轄の警察署によって違う。
- だからこそ、契約前に保健所と警察署の両方に相談することが絶対の鉄則!
私が店長だった「遊べる本屋」も、斬新な企画を実現するために、消防法や様々なルールと常に向き合ってきました。「ルールの中で、いかに面白いことをやるか」。それこそが、プロの店長の腕の見せ所です。
あなたの「楽しい」を詰め込んだバーが、しっかりとルールという「お守り」に守られ、お客様に長く愛される場所になることを願っています。

お店のコンセプトや物件の状況、特に横浜市や川崎市などの首都圏では、用途地域や警察署の運用が非常に厳格な場合があります。「この物件で深夜営業は可能か?」「ダーツを置きたいが申請が難しいか不安だ」など、具体的な開業準備のご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。元店長として、そして行政手続きの専門家として、横浜市を中心に神奈川県内・東京都内の「夜に輝くお店作り」を全力でサポートさせていただきます。







