「パリの蚤の市で見つけた、一点もののワークジャケット…」 「お客様が大切に着ていた、物語のある一着を、次の持ち主へと繋ぐ…」
古着屋さんの魅力、その生命線は、なんといっても「仕入れ」にありますよね。
こんにちは!元「遊べる本屋」店長の行政書士、栗原です。僕もお店を始めた頃は、海外の展示会で変な雑貨や日本では手に入らない洋書を買い付けてきては、「これをどうやって売ろうか」と胸を躍らせていました。あのワクワク感は、何物にも代えがたいものです。
しかし、その最高に楽しい「仕入れ」に、法律上の重要な「境界線」があることをご存知ですか?
「この海外買付したヴィンテージ、古物商許可なしで売っていいんだっけ?」 「お客様からの個人買取を始めるには、どんなルールが必要なの?」
この疑問を放置したまま仕入れ前に必読の記事を読まずに営業を始めると、あなたの夢が思わぬ形で頓挫してしまうかもしれません。
今回は、安心して世界中に「お宝」を探しに行くための、あなただけのお守り的リーガルガイドです。古物商のプロが、その境界線を白黒ハッキリ解説します!

なぜ仕入れ方法で変わる?古物営業法の「国内の盗品」という大前提
まず、なぜ仕入れ方法によって許可の要否が変わるのか、その根本原理を理解しましょう。それは非常にシンプルです。
古物営業法の最大の目的は、「“国内”で盗まれた品物の流通を防ぎ、速やかに発見すること」にあります。
したがって、この法律が適用されるのは、原則として以下の条件が揃った時です。
- “国内”で
- 一度誰かの手に渡ったもの(古物)を
- ビジネス(営業)として買い取る(仕入れる)場合
この3つのポイントが、海外買付と古物商許可、そして個人買取と古物商許可の境界線を判断する上での、すべての基準になります。
【ケーススタディ①】海外買付と古物商許可の境界線
多くの古着屋オーナーが憧れる海外買付。このケースにおける古物商許可の要否を詳しく見ていきましょう。
結論:あなたが直接、海外で買い付けた古着を日本で売るだけなら、許可は「不要」です
「え、そうなの!?」と驚かれたかもしれませんね。 なぜなら、先ほどの原則の通り、古物営業法は国内の法律だからです。あなたがパリやロサンゼルスで直接買い付けた商品は、日本の法律の適用外。つまり、それらは日本の古物営業法でいう「古物」には該当しないため、許可なしで販売することができるのです。
しかし!話はそう単純ではありません。ここに大きな落とし穴があります。
ここが落とし穴!「海外買付」でも許可が必要になる3つのケース
「海外買付だから大丈夫」という思い込みは危険です。以下のケースでは、許可が「必要」になります。
- ケースA:国内の業者から「海外で買い付けられた古着」を仕入れる あなたが直接海外に行くのではなく、国内の卸業者やディーラーが海外で買い付けてきた商品を仕入れる場合。これは「国内」での仕入れ行為になるため、明確に古物商の許可が必要です。
- ケースB:海外在住のバイヤーや業者から、継続的に「輸入」して仕入れる これも、実質的には国内での買取行為と同様とみなされ、許可が必要になる可能性が非常に高いです。特に反復継続して行う場合は、単なる個人輸入ではなく「営業」と判断されます。 ▶ご参考:税関 – 個人輸入と商業輸入について
- ケースC:海外買付品と、国内で仕入れた古着を“混ぜて”販売する 「海外買付品がメインだから」という理屈は通用しません。たとえ一点でも、国内で営業として仕入れた古物(例えば、お客様からの個人買取品)を販売するなら、お店全体として古物商の許可が必要になります。
このように、海外買付と古物商許可の関係は、あなたが「どこで」「誰から」仕入れるかによって結論が変わるのです。
【ケーススタディ②】個人買取と古物商許可の絶対的な関係
次に、古着屋のもう一つの生命線であり、お客様との絆を深める「個人買取」についてです。ここには、古着屋ならではの特別なルールが存在します。
結論:お客様からの個人買取は、許可が「絶対的に必要」です!
まず大前提として、お客様から対価を支払って商品を買い取る営業には、必ず古物商の許可が必要です。これは、仕入れ前に必読の最重要事項です。無許可で行えば、厳しい罰則の対象となります。
▶ご参考:警視庁 – 古物営業法の解説

古着屋ならではの特別ルール?「1万円未満の取引」における義務の免除
では、許可を取った後、すべての買取で厳格な手続きが必要なのでしょうか。実は、ここに古着屋さんの実務で非常に重要な「例外ルール」があります。
原則として、古物を買い取る際は「本人確認」と「古物台帳への記録」が義務付けられています。 しかし、古物営業法施行令により、「対価の総額が1万円未満の取引」については、これらの義務が原則として免除されるのです。
さらに、この免除ルールには「バイク・ゲームソフト・CD/DVD・書籍」といった”例外の例外”(1万円未満でも義務あり)があるのですが、幸いなことに「衣類」はそこに含まれていません。
したがって、「買取価格が9,999円以下の古着(衣類)については、法律上、本人確認と古物台帳への記録は不要」というのが正確な答えになります。
プロの視点:「義務免除」でも記録を推奨する本当の理由
「じゃあ、1万円未満の買取は楽でいいね!」…で終わらせないのが、愛されるお店になるための秘訣です。法律上は免除されていても、私は自主的に記録を残すことを強くお勧めします。
その理由は3つあります。
- トラブルからの自己防衛: 万が一、買い取った商品が盗品だった場合、取引の記録があれば警察署への説明がスムーズに行え、ご自身の潔白を証明する助けになります。
- 優良顧客との関係構築: 誰からどんな商品を買い取ったかの記録は、お店のファンを把握し、「新しい商品が入りましたよ」といったアプローチにも繋がる貴重な財産になります。
- 正確な経営分析: 正確な仕入れ記録は、お店の在庫管理や売上分析の基礎データとなり、感覚だけに頼らない、強い経営の土台を作ります。
このひと手間が、あなたのお店の信用と未来を創るのです。
まとめ – 仕入れの前に、まず「知識」を仕入れよう
いかがでしたでしょうか。 最高のヴィンテージジャケットを仕入れに海外へ飛ぶ前に、まず、あなたのビジネスを守るための正しい「知識」を仕入れることが何より重要です。
- 海外買付と古物商許可 → 自分で直接買い付けるなら不要。しかし、国内業者からの仕入れや継続的な輸入は許可が必要。
- 個人買取と古物商許可 → 許可は絶対的に必要。ただし、1万円未満の取引には義務の免除ルールがあるが、自主的な記録がお店を強くする。
この境界線を正しく理解し、ご自身のビジネスプランに合わせて適切な準備を進めること。それが、あなたの夢の古着屋開業を成功へと導く、確かな一歩となります。
▶ご参考:e-Gov法令検索 – 古物営業法
「自分の仕入れプランでは、結局、許可が必要なのか、不要なのか?」 「海外買付と国内でのせどり、両方やる場合の申請はどうすればいい?」
など、具体的な仕入れプランに関する法的な判断で迷ったら、営業所の契約や仕入れを本格的に始める前に、ぜひ一度ご相談ください。あなたの世界を股にかける冒険が、安全で最高に楽しいものになるよう、全力でサポートします。