皆さん、こんにちは! 横浜で行政書士事務所を開いております、栗原と申します。
突然ですが、私の前職、なんだと思いますか? 実は、あの「遊べる本屋」ことヴィレッジヴァンガードで店長をやっておりました。ポップを書いたり、ヘンな雑貨を探したり、毎日が文化祭前夜みたいな職場で、それはそれで楽しかったんですが、今は畑違いもいいところ、法律と書類の世界にどっぷり浸かっております。
なぜそんなキャリアチェンジを? まあ、その話は長くなるのでまた別の機会に譲るとして(笑)、『世の中の面白い「企み」を、今度は法的な側面から応援したい!』そんな気持ちがあるのは、今も昔も変わりません。
さて、今日のテーマは「民泊」。
近年、インバウンド需要の追い風もあって、空き家・空き部屋活用や新しいビジネスとして注目されていますよね。「自分の持っている物件で開業できないかな?」「面白そうだけど、始め方が分からない…」「なんか手続きとか難しいんでしょ?」そんな声もよく耳にします。
行政書士として、民泊の開業に関するご相談や申請のお手伝いをさせていただく中で、残念ながら「うまくいかなかった」「思わぬトラブルに発展してしまった」というケースも、少なからず見てきました。成功事例のキラキラした話もいいですが、転ばぬ先の杖として、失敗から学べることは本当に多いんです。
今回は、私が「遊べる本屋」店長時代に培った「人間観察眼」(?)と、行政書士としての経験から見えてきた、「民泊運営でつまずきやすい人の共通点」や「まさか!」の落とし穴について、ちょっと語らせてください。これは決して皆さんを怖がらせたいわけじゃなく、「こんなはずじゃなかった…」を防ぐための、いわば「読むワクチン」のようなものです。
この記事が、これから民泊を始めようと考えている方、許認可申請を検討している方にとって、少しでも有益な情報となれば幸いです。肩の力を抜いて、お茶でも飲みながら読んでみてくださいね。
観光庁が開設したサイトもご参照ください。→【民泊制度ポータルサイト】
落とし穴その1:「法律?まあ、なんとかなるっしょ!」楽観主義という名の油断
これ、本当に多いんです。「ちょっとくらい、バレなきゃ大丈夫でしょ」「手続き面倒だし、とりあえず始めちゃえ!」というノリ。気持ちは分からなくもないんですが、民泊運営は、住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)や旅館業法といった法律でルールがしっかり定められています。
まさかの事例:『隠れ家』のはずが『無法地帯』に…
ある相談者の方は、眺めの良い一軒家を相続し、「これはインバウンド客にウケる!」と意気込んで民泊をスタート。でも、「申請が難しいし、どうせ田舎だからバレないだろう」と、無許可で運営していました。最初は順調だったものの、ある日、深夜の騒音トラブルがきっかけで近隣住民から役所に通報が。調査の結果、無許可営業が発覚し、即刻営業停止命令。さらに、消防設備の不備も指摘され、多額の改修費用がかかることに…。「隠れ家風」を狙ったつもりが、ただの「法律を守らない家」になってしまったわけです。
学び:法律は『面倒なルール』ではなく『運営の土台』
無許可営業や法令違反は、罰金(住宅宿泊事業法では100万円以下、旅館業法ではさらに重い場合も)や営業停止だけでなく、信用失墜にも繋がります。特に、住宅宿泊事業法では、都道府県知事等への届出が必須ですし、年間提供日数(人を宿泊させる日数)の上限が180日と定められています(地域によっては条例でさらに厳しい制限がある場合も!)。旅館業法(主に簡易宿所)で運営する場合は、より厳しい設備基準や衛生管理が求められますが、日数制限はありません。
「自分の場合はどっち?」「どんな手続きが必要?」それを最初にしっかり確認し、ルールを守って運営することが、結局は一番の近道なんです。面倒に思える申請も、安全で持続可能な運営のための「基礎工事」と考えましょう。
落とし穴その2:「この物件ならイケる!」物件調査の甘さ
「駅近だし、広いし、絶対民泊に向いてる!」そう思っても、ちょっと待ってください。その物件、本当に民泊ができる場所ですか?
まさかの事例:『最高のロケーション』のはずが『営業不可物件』だった…
意気揚々と中古マンションの一室を購入し、リフォームも済ませて民泊の申請準備に入ったAさん。しかし、いざ申請しようとした段階で、そのマンションの管理規約に「民泊(住宅宿泊事業、旅館業を含む)禁止」の一文があることが発覚! 購入前に管理規約をしっかり確認していなかったのです。さらに追い打ちをかけるように、その地域は条例で平日の民泊運営が制限されており、Aさんの思い描いていた収益計画は完全に崩壊。結局、民泊は諦め、賃貸に出すことになりましたが、民泊用にかけたリフォーム費用が無駄になってしまいました。
学び:『物件』と『ルール』のマッチングは必須科目
物件探しの段階から、以下の点は必ずチェックしましょう。
- 用途地域: 都市計画法で定められた土地の利用制限です。住居専用地域など、地域によっては民泊(特に旅館業法)の営業が認められない場合があります。
- 建築基準法: 建物の構造や避難経路などが、民泊に必要な基準を満たしているか確認が必要です。
- 消防法: ゲストの安全を守るため、自動火災報知設備や誘導灯などの設置が義務付けられています。建物の規模や構造によって必要な設備は異なります。これが結構難しいし、費用もかかります。
- マンション管理規約: これ、本当に見落としがち! 「民泊禁止」はもちろん、「事業目的での利用禁止」といった規定がネックになることも。管理組合への確認は必須です。
- 地域の条例: 住宅宿泊事業法は国全体の法律ですが、自治体によっては条例で独自のルール(営業日数の制限、営業地域の制限など)を定めている場合があります。物件所在地の自治体の条例は必ず確認しましょう。
物件のポテンシャルだけでなく、「法的なフィルター」を通して見ることが、民泊開業の始め方として非常に重要です。
落とし穴その3:「ご近所付き合い?関係ないね!」隣人への配慮不足
民泊は、ホテルや旅館と違い、住宅街の中で運営されるケースも多いですよね。だからこそ、周辺住民への配慮は絶対に欠かせません。
まさかの事例:『ウェルカム!』のはずが『トラブルメーカー』の烙印…
閑静な住宅街で民泊を始めたBさん。インバウンドのゲストが多く、文化交流を楽しんでもらいたいと張り切っていました。しかし、夜遅くまでの話し声やスーツケースを引く音、ゴミ出しルールの不徹底などが続き、近隣からクレームが殺到。Bさん自身は良かれと思ってゲストをもてなしていたのですが、地域住民にとっては「騒音」であり「迷惑行為」。何度か注意を受けても改善が見られず、ついには町内会で問題視され、運営継続が難しい状況に追い込まれてしまいました。
学び:『地域』との共存意識が成功の鍵
ゲストにルール(深夜の騒音禁止、ゴミ出し方法、共有スペースの使い方など)をしっかり伝え、遵守してもらう仕組み作りが不可欠です。多言語でのハウスルールの作成や、チェックイン時の丁寧な説明などが有効でしょう。
また、開業前に近隣住民へ挨拶に行ったり、運営中もコミュニケーションを心がけたりするなど、「地域の一員」としての意識を持つことが大切です。クレームがあった場合は、真摯に対応し、改善策を講じる姿勢が求められます。トラブルを未然に防ぐ、あるいは早期に解決するためには、日頃からの関係構築が何よりの「防波堤」になります。
落とし穴その4:「安全対策?後でいいや」安全管理の軽視
「事故なんて、そうそう起きないでしょ」という油断が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。特に消防設備は、法律で設置が義務付けられているだけでなく、ゲストと自身の命を守るための最低限の備えです。
まさかの事例:『アットホーム』のはずが『ヒヤッとホーム』に…
古民家をリノベーションし、趣のある民泊施設として人気だったCさんの宿。しかし、ある冬の夜、宿泊客が使用していた暖房器具から火災が発生。幸い初期消火で大事には至りませんでしたが、消防署の調査で、義務付けられていた火災報知器の一部が未設置だったことが判明。法令違反として指導を受けるだけでなく、安全管理体制への信頼も大きく損なわれました。もし火災が広がっていたら…と考えると、本当に「ヒヤッ」とする事例です。
学び:安全は『コスト』ではなく『必須投資』
消防法の基準を満たす設備の設置(自動火災報知設備、誘導灯、消火器など)はもちろん、定期的な点検や避難経路の確保・明示も重要です。これらの設置や手続きは専門知識が必要で、費用もかかりますが、絶対に軽視してはいけません。
また、非常時の連絡体制(ホスト、消防署、警察、医療機関など)を整備し、ゲストに分かりやすく伝えておくことも大切です。万が一の事態に備えることが、ゲストに安心して滞在してもらうための「おもてなし」の基本とも言えます。
落とし穴その5:「運営はシステム任せ!」運営実務の丸投げ
最近は、予約管理や価格設定を自動化する便利なツールもたくさんあります。でも、「システムに任せておけばOK!」と、実際の運営を軽視してしまうと、思わぬところで足元をすくわれます。
まさかの事例:『スマート運営』のはずが『ゲスト不満足』の嵐…
最新のスマートロックを導入し、予約からチェックインまで完全に非対面で完結する民泊を始めたDさん。効率重視で清掃も外部業者に丸投げし、自身はほとんど現地に顔を出しませんでした。しかし、清掃の質にムラがあったり、設備の使い方が分からず困っているゲストからの問い合わせに対応できなかったり、といった問題が頻発。レビューには「不親切」「汚い」といったコメントが並び、予約は激減してしまいました。
学び:『効率化』と『おもてなし』のバランス感覚
便利なツールを活用するのは良いことですが、民泊運営の核心は、やはり「人」が関わる部分です。
- 清掃: ゲストが最も気にするポイントの一つ。業者に委託する場合も、定期的な品質チェックは欠かせません。
- ゲスト対応: 緊急時の連絡はもちろん、地域の情報提供やちょっとした困りごとへの対応が、満足度を大きく左右します。特にインバウンド客の場合、言語や文化の違いへの配慮も必要です。
- 設備管理: 備品の補充や故障への対応など、日々の細やかなメンテナンスがリピーター獲得に繋がります。
「顔が見えない運営」は、トラブル発生時のリスクも高まります。どこまでをシステム化し、どこに人の手をかけるべきか、そのバランス感覚を持つことが重要です。
まとめ:失敗の共通点は「準備不足」と「想像力の欠如」
ここまで、いくつかの「落とし穴」事例を見てきました。失敗してしまう人の共通点をあえて言葉にするなら、「事前のリサーチ不足」「法律・ルールの軽視」「周辺への配慮不足」「安全意識の低さ」「運営実務の軽視」…つまりは、『始める前の準備不足』と『運営していく上での想像力の欠如』と言えるかもしれません。
民泊は、空いている空間を有効活用し、国内外の多くの人々と交流できる、非常に魅力的なビジネスです。インバウンドの回復とともに、その可能性はさらに広がっていくでしょう。
しかし、その一方で、法律や条例、安全管理、近隣配慮など、クリアすべき課題が多いのも事実。「なんだか難しいな…」と感じるかもしれません。でも、これらの課題一つひとつに丁寧に向き合い、準備をしっかり行うことが、成功への一番の近道です。
ヴィレッジヴァンガードで働いていた頃、面白い本や雑貨を見つけてきて、それがお客さんに「刺さった」時の喜びは格別でした。民泊の開業や運営も、きっとそれに似た喜びがあるはずです。あなたの「面白い企み」が、法律や手続きの壁に阻まれて頓挫してしまわないように、そして、「まさか!」の落とし穴にハマってしまわないように、今日の話が少しでもヒントになれば嬉しいです。
【ちょっと一息】
さて、ここまで読んでみて、「うーん、やっぱり申請とか始め方とか、自分だけでやるのは不安だな…」「うちの物件、本当に大丈夫か専門家の意見を聞きたいな」と感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。
法律の条文や役所の手続きって、まるで迷路みたいに感じることもありますよね。そんな時、地図やコンパス、時には道案内役がいたら心強いと思いませんか?
もし、あなたが民泊開業の「迷路」で道に迷いそうになったり、持っている「地図(計画)」が正しいか確認したくなったりしたら、どうぞお気軽にお声がけください。元・本屋の店長らしく(?)、あなたの状況に合わせた「攻略本」を一緒に探すお手伝いができるかもしれません。初回のご相談は無料でお受けしていますので、まずはお問い合わせフォームからご連絡いただければ幸いです。
あなたの「面白い企み」が、素敵な形で実現するのを応援しています!
こちらもご確認ください。→民泊事業申請について
※本記事の内容は2025年4月現在の法律に基づいています。法律や条例は変更される可能性がありますので、最新情報は必ず関係機関にご確認ください。