こんにちは!行政書士の栗原です。
深夜0時。それは、シンデレラの魔法が解けてしまう、ちょっと特別な時間。 でも、これから自分だけのバーを開こうとしているあなたにとっては、むしろ「ここからが本番!」と、お店の魔法がさらに深まる時間かもしれませんね。
私が店長だった「遊べる本屋」には、お酒やカクテルにまつわる素敵な本もたくさん並んでいました。そんな本を眺めながら、「物語に出てくるような、時間を忘れて語り明かせるバーがあったら最高だろうな」なんて、よく夢想したものです。
しかし、その「深夜0時以降もお酒を提供する」という夢を叶えるためには、保健所の飲食店営業許可とは別に、もう一つ、とても大切なお守りが必要になります。それが、今回のテーマである「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」、通称「深夜酒類の届出」です。
今回は、この少しややこしい手続きについて、ある新人オーナーの物語を通して、分かりやすく解説していきます。

物語「知らなかったオーナーAさんの悲劇」
ここに、夢だった自分のバーを開いたAさんがいました。保健所で飲食店営業許可も取り、食品衛生責任者の資格も準備して、完璧なスタートを切ったはずでした。お店は評判を呼び、連日大盛況。お客様から「マスター、もう一杯!」の声援に応え、時計の針が深夜0時を回っても、お店は賑わっていました。
そんなある夜のこと。お店に二人の警察官が訪れます。 「深夜0時を過ぎてお酒をメインで提供されていますが、深夜酒類提供の届出はされていますか?」 Aさんは胸を張って答えます。「はい!保健所の営業許可なら、ちゃんと持っています!」
しかし、警察官の答えは無情でした。 「それは保健所の許可ですね。私たちが確認しているのは、警察署への深夜酒類の届出です。これがないと、無届営業になってしまいますよ…」
Aさんは、頭が真っ白になりました。飲食店営業許可さえ取れば、何時まででも営業できると思っていたのです。
なぜ警察署への「届出」が必要なのか?
Aさんのように、「保健所の許可があればOK」と誤解されている方は、実は少なくありません。この二つは、目的も、根拠となる法律も、管轄する役所も、全くの別物なのです。
- 飲食店営業許可
- 目的:食中毒などを防ぎ、食の安全を守るため。
- 法律:食品衛生法
- 管轄:保健所
- 深夜酒類提供の届出
- 目的:お店の周りの風紀を守り、地域の安全を保つため。
- 法律:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)
- 管轄:警察署
つまり、深夜酒類の届出とは、「私たちは、深夜もルールを守って健全に営業します」という、地域社会への約束の証なのです。
▶ご参考:e-Gov法令検索 – 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
あなたのお店は届出が必要?3つのチェックポイント
では、どんなお店がこの届出の対象になるのでしょうか。以下の3つの条件をすべて満たす場合、届出が必要です。
条件①:深夜0時以降も営業する
まず大前提として、営業時間が深夜0時(午前零時)から日の出までの時間帯にかかることです。
条件②:お酒をメインに提供する
ここが少し判断の難しいポイントです。「主食」を提供しているかどうかで判断されます。
- 届出が不要な例:ラーメン屋、牛丼屋、定食屋など。 深夜にラーメンや定食(主食)を提供し、お客様の要望でビールを出す場合は、届出は不要です。
- 届出が必要な例:バー、スナック、おつまみ中心の居酒屋など。 食事メニューがあっても、営業の主体がお酒の提供にある場合は、届出が必要です。
条件③:「接待」をしない
もし、お客様の隣に座ってお酌をしたり、カラオケでデュエットをしたりする「接待行為」を行う場合は、この深夜酒類の届出では営業できません。その場合は、さらに厳格な手続きである「風俗営業許可」の申請が必要になります。この違いは絶対に混同しないようにしましょう。

届出の具体的な流れと、最大の「罠」
もし、あなたのバーが届出の対象だとわかったら、開業準備と並行して手続きを進めましょう。
手続きの基本的な流れ
- 警察署へ事前相談:物件の契約前に、図面を持って管轄の警察署(生活安全課)に相談します。
- 書類の準備・作成:届出書、営業の方法、住民票、お店の図面などを作成・収集します。
- 警察署へ届出:営業開始の10日前までに、全ての書類を提出します。
- お店の実査:後日、警察官がお店を訪れ、図面通りかなどを確認します。
▶ご参考:警視庁 – 深夜酒類提供飲食店営業の届出
【最重要】物件探しに潜む、最大の「罠」
この手続きで最も恐ろしいのが、物件探しの段階に潜む「用途地域」という罠です。 風営法では、深夜にお酒をメインで提供するお店は、「住居専用地域」など、特定のエリアでは原則として営業できないと定められています。
つまり、どんなに素敵な物件を見つけても、その場所が「営業できないエリア」だったら、絶対に届出は受理されないのです。「知らなかった」では済まされず、それまでかけた費用と時間が全て無駄になってしまいます。
気になる物件が見つかったら、契約する前に、その住所を管轄する自治体のウェブサイトで「都市計画図」を確認したり、警察署に直接確認したりすることが、失敗を避けるための絶対条件です。
▶ご参考:横浜市 – 横浜市行政地図情報提供システム(用途地域)
まとめ:正しいお守りを手に入れて、最高の夜を演出しよう
バー開業における深夜酒類の届出の重要性、ご理解いただけたでしょうか。
- 飲食店営業許可とは全くの別物。
- 深夜0時以降、お酒メイン、接待なしのお店が必要な届出。
- 窓口は保健所ではなく、警察署。
- そして何より、営業できる場所(用途地域)に制限がある。
この届出は、面倒なだけの手続きではありません。それは、あなたの夢のお店が、お客様や地域から信頼され、安心して最高の夜を提供し続けるための、大切なお守りなのです。
私が店長だった本屋も、たくさんのルールを守ることで、お客様が安心して本を選べる空間を維持していました。あなたのバーも、この正しいお守りを手に入れることで、きっと誰かの忘れられない夜を、末永く演出し続けることができるはずです。
お店のコンセプトや物件の状況によって、必要な届出や許可は変わってきます。「うちは接待にあたるのかな?」「この場所で営業できるか不安だ」など、具体的なご相談やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。元店長として、そして行政手続きの専門家として、あなたの「夜に輝くお店作り」を全力でサポートさせていただきます。