こんにちは!行政書士の栗原です。
晴れた日のイベント会場、あなたのキッチンカーの前にはお客様の長い列。自慢の料理を手に、みんなが笑顔になっている…最高にワクワクする光景ですよね。私も「遊べる本屋」の店長時代、お客様が楽しそうにしているのを見るのが、何よりの喜びでした。
しかし、その華やかな表舞台の裏側には、お客様からは見えない、とても重要な「秘密基地」の存在があります。それが、キッチンカーの心臓部とも言える「仕込み場所」です。
そして、残念ながら、ほとんどのケースで「自宅のキッチン」を仕込み場所として使うことは、保健所から認められません。
「え、じゃあどこで野菜を切ったり、ソースを作ったりすればいいの?」
そう、このキッチンカーの仕込み場所問題こそ、多くの開業希望者が最初にぶつかる、最大の壁なのです。今回は、この難関を突破し、あなたの夢のキッチンカーを現実にするための具体的な3つの方法を、徹底的に解説していきます。

なぜダメなの?自宅キッチンが仕込み場所として認められない理由
まず、なぜ保健所は自宅のキッチンでの仕込みにNGを出すのでしょうか。決して意地悪をしているわけではありません。これには、食中毒などを防ぐための、明確で合理的な理由があるのです。
生活空間との区別が難しい「衛生上のリスク」
保健所が最も重視するのは、「食品を扱う専用の衛生的な空間が確保されているか」という点です。自宅のキッチンは、食事をしたり、家族が出入りしたり、時にはペットがいるかもしれない「生活空間」ですよね。そのため、営業用の食材が、生活由来の雑菌などに汚染されるリスクを排除しきれないのです。
また、家庭用のキッチンは、営業用として定められた設備条件(例:シンクの大きさや数、十分な収納スペースなど)を満たしていないことがほとんどです。これが、自宅キッチンでの仕込みが難しいとされる根本的な理由です。
仕込み場所が「不要」なケースもある?
一方で、提供するメニューによっては、必ずしも独立した仕込み場所が必須ではないケースもあります。
例えば、「袋詰めの冷凍ポテトを仕入れ、車内のフライヤーで揚げて提供するだけ」というように、全ての調理工程(開封、調理、提供)がキッチンカーの車内で完結する場合です。
しかし、野菜をカットしたり、肉に下味をつけたり、オリジナルのソースを作ったり…といった本格的な調理を行うのであれば、衛生基準を満たした仕込み場所の確保は、避けては通れない道となるのです。
秘密基地を探せ!仕込み場所を確保する3つの具体的な方法
では、どうすれば保健所の基準をクリアできるキッチンカーの仕込み場所を見つけられるのでしょうか。ここでは、3つの代表的な方法とそのメリット・デメリットをご紹介します。
方法①【レンタルキッチン】必要な時だけ借りる、最も手軽な選択肢
最近増えているのが、時間単位で借りられるレンタルキッチンやシェアキッチンです。
- メリット:初期費用を抑えられる。飲食店営業許可を取得済みの施設が多く、すぐに利用できる。
- デメリット:利用料が割高になる場合がある。他の利用者との兼ね合いで、使いたい時に予約が取れない可能性がある。食材や調理器具の保管場所が限られる。
- 注意点:契約前に、その施設を自分のキッチンカーの仕込み場所として保健所に届け出ることが可能かを、必ず運営者に確認しましょう。
方法②【飲食店の「間借り」】プロの厨房を借りる、交渉力が試される選択肢
次に、既存の飲食店のアイドルタイム(例:夜だけ営業しているバーの昼間の時間など)に、厨房の一部を借りる「間借り」という方法です。
- メリット:本格的な厨房設備を使える。レンタルキッチンより安価な場合がある。オーナーとの繋がりができる。
- デメリット:貸してくれるお店を見つけるのが難しい。双方のルール作りや人間関係に気を使う。
- 注意点:口約束は絶対にNGです。必ず賃貸借契約書や使用許諾契約書を交わしましょう。また、この方法が可能かどうか、事前に管轄の保健所に相談するのが賢明です。この準備が後のトラブルを防ぎます。
方法③【専用施設の開業】自分の城を築く、覚悟の選択肢
最後に、自分で新たに飲食店営業許可を取得した、キッチンカー専用の仕込み場所(セントラルキッチン)を構える方法です。
- メリット:自分の好きなように設計でき、作業効率が最も高い。他のキッチンカーオーナーに貸し出すことも可能。
- デメリット:物件取得や改装にかかる初期費用が最も高額になる。
- 注意点:これは、将来的に複数台のキッチンカー運営を目指すなど、事業を大きくしたい方向けの選択肢と言えるでしょう。

保健所の「ものさし」を知る。仕込み場所に求められる設備条件
どの方法を選ぶにせよ、最終的にその場所が仕込み場所として認められるかどうかは、保健所が定める設備基準をクリアしているかどうかにかかっています。これは、固定店舗に求められる飲食店営業許可の基準とほぼ同じです。
チェック項目 | 主な基準 |
シンク | 2槽以上のシンク(食材用と食器洗浄用を分ける)が必須。 |
手洗い設備 | 従業員専用の手洗い設備が、作業場内に別途必要。 |
給湯設備 | シンク、手洗い設備の両方からお湯が出ること。 |
床・壁 | 耐水性で、掃除しやすい材質であること(コンクリート、タイルなど)。 |
換気 | 十分な換気能力を持つ換気扇が設置されていること。 |
その他 | 蓋付きのゴミ箱、調理器具を衛生的に保管できる戸棚など。 |
この基準を満たした施設でなければ、あなたのキッチンカーの仕込み場所として申請し、受理されることはありません。物件探しの際は、このリストを片手にチェックしましょう。
▶ご参考:厚生労働省 – 営業規制に関する情報
まとめ:秘密基地は、あなたの夢の土台になる
キッチンカーの仕込み場所探しは、確かに開業準備の中でも特に骨の折れる、難しいパートかもしれません。
しかし、この場所は、単に保健所の許可を得るためのものではありません。お客様に安全で美味しい料理を届けるための、品質管理の要。あなたのクリエイティビティが生まれるアトリエ。そして、あなたのビジネスを根底から支える、最も重要な土台なのです。
私が店長だった本屋でも、お客様が見る華やかな売り場の裏側には、地道な在庫管理や発注作業を行う、決して広くはないバックヤードがありました。でも、その場所があったからこそ、安心して楽しいお店作りができたのです。
あなたの素晴らしい秘密基地が見つかることを、心から応援しています。

仕込み場所の確保は、物件の状況や契約内容、そして提供したいメニューによって、必要な準備や注意点が大きく異なります。ご自身のケースで「この物件で大丈夫だろうか?」「契約で気をつけることは?」といった具体的なご相談やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。元店長として、そして行政手続きの専門家として、あなたの「秘密基地作り」を全力でサポートさせていただきます。