「横浜で民泊を開業すれば、インバウンド観光客も多いし、きっと成功するはず!」 港町の美しい景色、中華街の賑わい、都心からのアクセスの良さ…。そう考えて、横浜での民泊投資に夢を膨らませている方も多いのではないでしょうか。
しかし、そのバラ色の事業計画、横浜市では「赤字確定」のシナリオに変わってしまうかもしれません。
こんにちは!元「遊べる本屋」店長の行政書士、栗原です。私が店長だった頃、同じ系列店でも、場所によって売れる本のジャンルや客層が全く違う「ローカルルール」がありました。ビジネスは、大きなルールだけ見ていてはダメなんです。民泊も全く同じ。国の法律である「住宅宿泊事業法(民泊新法)」だけを頼りに開業計画を立てると、思わぬ落とし穴にハマります。
なぜなら、横浜市には「上乗せ条例」という、非常に厳格な独自のルールが存在するからです。
この記事では、多くのホストが見落とし、涙をのむ「横浜市の上乗せ条例」がなぜ「ホスト泣かせ」と言われるのか、そのリアルな理由と対策を徹底的に暴露します。横浜での民泊の始め方を考えているなら、物件を契約する前に、必ず読んでください。

国のルールだけじゃない!そもそも民泊の「上乗せ条例」とは?
まず、多くの方が混乱する「上乗せ条例」について、簡単にご説明します。
日本全国で民泊を運営するための基本的なルールは、国の法律である「住宅宿泊事業法(民泊新法)」で定められています。これは、いわば「カレーライスの基本レシピ」のようなものです。
しかし、各市区町村は、その地域の実情に合わせて「うちの地域では、もっと辛口にします」「福神漬けは必須です」といったオリジナルのルールを追加できます。これが「上乗せ条例」という名のトッピングです。
観光都市であると同時に、閑静な住宅街も多い横浜市は、市民の穏やかな生活環境を守るため、このトッピングを“激辛”レベルで追加しています。そのため、国のルールだけを見て「年間180日運営できるぞ!」と安易に考えていると、痛い目を見ることになるのです。
横浜市の民泊が「ホスト泣かせ」と言われる3つの理由
では、具体的に「横浜市の上乗せ条例」は、どこがそんなに厳しいのでしょうか。ここでは、収益計画を根底から覆しかねない、特に重要な3つの理由を解説します。
理由①:最大の罠!「住居専用地域」では週末しか運営できない
これが、横浜市の上乗せ条例が「ホスト泣かせ」と言われる最大の理由です。横浜市では、以下の「住居専用地域」に指定されているエリアで民泊(住宅宿泊事業)を行う場合、
「月曜日の正午から金曜日の正午まで」は、人を宿泊させてはならない
と定められています。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
つまり、平日の宿泊客はほぼ取れず、運営できるのは金曜の午後から月曜の午前中まで、実質「週末だけ」ということです。国の法律では年間180日まで運営可能ですが、横浜市のこのルール下では、その半分以下(年間約104日)しか営業できません。通常の感覚で投資計画を立てていれば、赤字確定は免れないでしょう。これが、この条例が「ホスト泣かせ」と言われる所以です。
理由②:開業前に心が折れる?「周辺住民への事前周知」の重圧
次に、申請手続きのハードルが非常に高い点です。横浜市では、民泊の届出をする前に、近隣住民に対して「ここで民泊を始めます」という内容を記載した書面を配布し、内容を説明することが義務付けられています。
周知すべき内容は、騒音防止策、ゴミ出しのルール、火災時の対応、そして苦情を受け付けるための連絡先(24時間対応)など、多岐にわたります。ただでさえ、民泊に良いイメージを持っていない住民の方もいる中で、これらの説明を行うのは相当な精神的負担です。ここで住民の理解を得られなければ、たとえ法律上の要件を満たしていても、その後の円滑な運営は難しいでしょう。
理由③:24時間対応は当たり前!「緊急時の駆けつけ体制」の厳しさ
副業感覚での民泊運営をさらに難しくさせるのが、管理体制の厳しさです。横浜市では、宿泊者や近隣住民からの苦情・問合せに24時間対応できる体制を整え、かつ、何かあった際には管理者等が「概ね30分以内」に現場に駆けつけられることを求めています。
遠方に住んでいたり、日中は別の仕事で身動きが取れなかったりする場合、この体制を自分で構築するのは極めて困難です。結果として、高額な費用を払って代行業者に管理を委託することになり、収益をさらに圧迫する要因となります。
厳しい条例を乗り越え、横浜で民泊を成功させるための3つの戦略
「じゃあ、横浜での民泊開業は諦めるしかないのか…」 そう思うのはまだ早いです。厳しいルールを正しく理解し、戦略を練れば、勝機はあります。
戦略①:「用途地域」の理解こそが全ての始まり
最も重要な対策は、物件探しの段階で、まず「用途地域」を正しく理解することです。ここで、民泊新法と旅館業法の違いを見てみましょう。
【比較早見表】民泊新法 vs 旅館業法 営業できるエリアはどこ?
用途地域 | 民泊新法 (住宅宿泊事業) | 旅館業法 (簡易宿所) |
第一種低層住居専用地域 | 🟢 可能 ※ | ❌ 不可 |
第二種低層住居専用地域 | 🟢 可能 ※ | ❌ 不可 |
第一種中高層住居専用地域 | 🟢 可能 ※ | ❌ 不可 |
第二種中高層住居専用地域 | 🟢 可能 ※ | ❌ 不可 |
第一種住居地域 | 🟢 可能 | ⚠️ 条件付き可 (3,000㎡以下) |
第二種住居地域 | 🟢 可能 | 🟢 可能 |
準住居地域 | 🟢 可能 | 🟢 可能 |
近隣商業地域 | 🟢 可能 | 🟢 可能 |
商業地域 | 🟢 可能 | 🟢 可能 |
準工業地域 | 🟢 可能 | 🟢 可能 |
工業地域 | 🟢 可能 | ❌ 不可 |
工業専用地域 | ❌ 不可 | ❌ 不可 |
この表を見れば一目瞭然ですが、「住居専用地域」では、そもそも旅館業の許可は取得できません。 その上で、民泊新法では週末のみという厳しい日数制限が課せられます。つまり、このエリアで高収益を上げるのは極めて困難です。したがって、物件の用途地域を調べることが、横浜での民泊の始め方の第一歩です。

戦略②:狙い目エリアで「旅館業許可」を目指す
先の表で「🟢 可能」となっている「商業地域」や「近隣商業地域」などで物件が見つかるなら、住宅宿泊事業法ではなく、「旅館業法」の許可取得を目指すのは有効な戦略です。施設の構造基準などが厳しく、初期投資は増えますが、一度許可を取れば365日運営が可能となり、集客の幅も大きく広がります。本格的な事業として取り組むなら、検討する価値は十分にあります。
戦略③:「家主居住型」で運営コストとハードルを下げる
もし、あなたがその物件に住みながら民泊を運営する「家主居住型」を選ぶなら、横浜市の上乗せ条例のハードルは少し下がります。例えば、近隣住民への事前周知の掲示期間が短縮されたり、外部の管理業者への委託が不要になったりと、金銭的・精神的な負担が軽減されます。これは、副業として始めたい方や、地域住民とのコミュニケーションを大切にしたい方にとって、非常に現実的な選択肢と言えるでしょう。
まとめ – 横浜での民泊開業は「情報戦」である
「横浜市の上乗せ条例」は、確かに「ホスト泣かせ」と言われるほど厳しい内容です。しかし、本当に怖いのは、条例そのものではなく、それを「知らずに始めてしまう」ことです。
安易な「儲かりそう」という期待だけで飛び込むのではなく、地域のルールという「情報」を制し、緻-密な戦略を立てること。そして、市民生活との共存を第一に考えること。それこそが、魅力的な街・横浜で、ホストとしても、一人の事業者としても、長く愛される民泊を運営していくための唯一の道です。
▶ご参考:横浜市 住宅宿泊事業(民泊)について(まずは公式情報を熟読しましょう)
▶ご参考:観光庁 民泊制度ポータルサイト(国の基本ルールはこちら)
「自分が検討している物件は、条例の対象になるのだろうか?」 「この収支計画は、果たして現実的なのか?」
など、専門的な視点からのアドバイスが必要な場合は、どうぞお気軽にご相談ください。横浜での民泊開業、その大きな一歩を踏み出す前に、ぜひ一度、一緒に立ち止まって考えてみましょう。
こちらもご確認ください。→民泊事業申請について